盛岡市からJR東北本線で南に25分。可愛らしい木造平屋建ての紫波中央駅の目の前に、紫波町の街づくりの拠点オガールプラザがある。
開発計画に着手してから20年余、現在では、同町役場、図書館、ホテル、ショッピングタウン、各科医院、情報交流館などが立ち並び、体育館、サッカー場、公園も揃う。その周辺には新興住宅街も広がり、地方の「街づくり」のモデルケースと言われている。
この「街づくり」計画の中心施設として、当初から位置づけられてきたのが産地直売所の紫波マルシェだ。岩手県民は、施設名から「オガール紫波」と呼ぶのが常になっているという。オガール紫波株式会社が運営する。産地直売所の現状と課題について、同社社長の佐々木廣さんに聞いた。(文・毛賀澤明宏)
多いのは、若い客層・若い新規就農者
「客層は、産直としては圧倒的に若い人が多い。出荷者も、ベテラン農家が頑張ってくれているのはもちろんだけど、年々、若い新規就農者が多くなってきていることが特徴かな」。佐々木さんはこう話す。農水省選定の「地産地消の仕事人」の一人として岩手県のみならず全国の産直事業を牽引してきた経験にもとづく分析力だ。
客観的条件は、オガールを核とした街づくりが多くの子育て世代を紫波町に引き寄せたこと。周辺に大型食品売り場が少ないこともあり、若い客層が、「週に2~3回来店する」(佐々木さん)という。
当然農産物の売れ行きは好調で、夏から秋にかけて出荷されるぶどうを中心に、大型の専業農家が、系統出荷だけでなく、オガール紫波にもさかんに出荷するようになった。「生鮮3品をそろえて、この店に来ればなんでも買えるようにした」「午後の品薄時間には市場仕入れ品も並べて『品切れ』がないように心がけた」。これが客を呼び、さらにそれが若い出荷者を引き寄せるという相乗効果もあったという。
この傾向は、青果物だけでなく加工品にも表れた。「地域の人たちと共同して6次産業化に取り組み、餅や団子、弁当や総菜、スイーツやケーキなど様々な商品を生み出した。これも若い客を呼び、若い作り手を増やすことに大きく貢献した」 年間で来客数32万人、売上げ額5億2千万円の底力の秘密はこの辺にありそうだ。
産直の経営管理の基本が大切
本年の新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、3月頃は昨年対比で売上げが10%ほど落ち込んだ。しかし、4月以降は、同じく112%ほどの売上げ増に転じている。外食を控え、自宅で食事をつくる〝巣ごもり〟の波は、消費者の足を産地直売所に向かわせているのだと言えよう。
では、オガール紫波は、売上げの落ち込みに直面していた時期に何を心掛けたのか?
「『初心に帰れ』というのが私の座右の銘。結局、売上げ額・客数・客単価・買上げ点数・ロス率、仕入れ原価―こうした経営管理の基本的な指標をきちんと確認し、日々改善策を考えた。基本中の基本に立ち返ったということだね」と佐々木さんは言う。オガール紫波には生産者の出荷物を扱う生産者部門、仕入れ部門、和洋日配部門、テナント部門などの営業部門があるが、この部門ごとに、先の基本的指標を掌握しながら売上げ・商品管理を進めたのだそうだ。
「レジの売上げデータの活用というと、何か魔法の手があるかのように感じる人もいるようだけれど、そんなのはありゃしない。日毎、週毎、月毎、年毎にきちんと指標の数字の推移を押さえる。昔に比べれば、いまのポスレジはそれをするために相当便利な機能をたくさん備えていると思うよ」と笑った。
産直は〝すきま風商法〟だ
オガール紫波を今後どのような方向に進めたいか?―佐々木さんは「産直は〝すきま風商法〟だ」と言う。人のやっていないことをやる。そのニッチな隙間でアイデアをひねることが大切だという意味合いだ。
例えば、オガール紫波では、枝豆がそうだった。この地域では以前、枝豆は9月にならないと収穫できず、ビールの時期は仕入れ品の枝豆ばかりを売っていた。だが、「地元の枝豆でビールを飲みたい」と言い出した農家が、栽培の前倒しに挑戦し、今では6月から収穫・出荷できるようになった。オガール紫波の目玉商品だ。
土目の影響からか、この地域ではニンジンが上手にできなかった。しかし、日常野菜で年中需要があるニンジンを仕入れに頼って売ってばかりいてはいけないのではないかと提案すると多くの農家が栽培に挑戦するようになった。現在はオガールの品目別で一番の売上げだ。 「人がやっていないことをやる」。この精神は、総菜をはじめとする加工品・6次産業化商品の創出にも生かされている。「会社として新しいタイプの加工所を設置したいと思っている」……オガール紫波の挑戦はまだまだ続きそうだ。
※この記事は「産直コペルvol.43(2020年9月号)」に掲載されたものです。
オガール紫波・紫波マルシェ
住所:岩手県紫波町紫波中央駅前2-3-3
オガールプラザ西棟
TEL:019-672-1504