世界的に注目が集まっているSDGsですが、国際的な話、直売所には関係ないと感じている方も多いかもしれません。しかし農産物直売所の歴史をSDGsの目標に照らし合わせてみると、さまざまな共通点があるように思います。直売所とSDGsとの共通項について、考えてみました。(文:編集室)
SDGsとは?
SDGsは、2015年9月の国連サミットで150を超える加盟国首脳の参加のもと、全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に掲げられた、「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)」のことです。SDGsは、先進国・途上国すべての国を対象に、経済・社会・環境の3つの側面のバランスがとれた社会を目指す世界共通の目標として、17のゴールとその課題ごとに設定された169のターゲット(達成基準)から構成されます。 それらは、貧困や飢餓から環境問題、経済成長やジェンダーに至る広範な課題を網羅しており、豊かさを追求しながら地球環境を守り、そして「誰一人取り残さない」ことを強調し、人々が人間らしく暮らしていくための社会的基盤を2030年までに達成することが目標とされています。(農水省HPより)
働きがいも 経済成長も
農産物直売所が生まれた背景に「農家の手取りを増やそう」という目標があったことは多くの人が知るところだと思います。自ら考え、価格を決め販売するという形態は、市場出荷を主としてきた生産者にとって革命的なできごとでもありました。直売所は、消費者との交流の場を生み、生産者に売る面白さを実感する機会を与え、働きがいをもたらしてきました。
また、中山間地域の農業は、効率化を求める中で次第に取り残されようともしてきました。現在も、人口減少や高齢化を背景に耕作放棄地の増加が進んでいます。そうした中「この土地を守りたい」と農業を続ける高齢農家を支える場として、直売所が機能してきたケースもあります。農産物直売所は、高齢者の生きがいをつくり、健康長寿の源にもなってきました。
こうした事業形態が消費者に受け入れられた結果、現在、農産物直売所は市場規模1兆円を超える産業(6次産業化総合調査〔農水省〕より)に成長しています。
ジェンダー平等を実現しよう
「農村女性」の活躍の場としても農産物直売所は機能してきました。昭和の中頃から、小さな加工所を設立しながら郷土の味を販売してきた農村に暮らす女性たち。それはかつて自身の通帳を持つことさえできなかった女性たちが抱えていた切なさを跳ね返すような活動でもありました。現在も多くの直売所で販売されているお惣菜やお菓子などの手作り加工品はその流れを受け継いでいます。活動を契機に、直売所や加工所の運営者となった女性団体も少なくありません。
住み続けられるまちづくりを
過疎地域のみならず、都市部においても「買い物難民」「買い物弱者」といわれる方が増えています。地元小売業の衰退などから「食料品へのアクセス」にまつわる問題が社会的な課題になる一方で、農産物直売所は地域の農業振興を目的とすることで、過疎地域や郊外などでも運営されてきました。地元の農産物を流通させるだけでなく、あえて日用品の買い物もできるよう品ぞろえを行う直売所もあります。そうした地域に住む高齢者にとって、直売所が唯一、食料品などへアクセスできる場であることもあります。また、小規模農家が多い地域では、農産物直売所を生活の糧とする生産者も少なくありません。誰しもが愛着ある土地に住み続けるために、農産物直売所はさまざまな役割を担っています。
エネルギーをみんなに そしてクリーンに
「地産地消」は農産物直売所の代名詞でもあります。地域で採れたものを地域内で消費できれば流通に必要なエネルギーを削減することができるとして耳目を集めてもきました。近年では道の駅などを中心に、次世代型の給電システムや太陽光発電設備を備える店舗も多くなってきました。防災拠点としての役割が近年期待されていることもあり、最新型の蓄電設備を備える直売所も生まれています。
さらに人口増加と世界経済成長のなかで、石油需給のひっ迫は今後避けられないと考えられています。農産物だけでなく林産物などさまざまな商品を販売する農産物直売所は、地域の人が薪や炭といった自然エネルギー(再生可能エネルギー)へアクセスできる場にもなっています。
つくる責任 つかう責任
食品廃棄はサプライチェーンの川上・川下かかわらず、あらゆるところで発生しています。日本の食品ロスは年間640万トン(農林水産省・環境省推計)。日本ではとくに消費段階である小売店や外食産業において膨大な食品ロスが発生しています。
一方、多くの直売所では出荷過剰になり売れ残ってしまう農産物を「売り切るために」加工所やレストランを増設したり、加工団体と連携したりしながら廃棄を減らすための努力をしてきました。「売り上げの多さ」よりも「売れ残りの少なさ」こそ、直売所の指標だとする店も数多くあります。生産者が潤わなければ店も潤うことはないという、両者が近しい関係性にある直売所だからこそ、共有できた目標なのかもしれません。
農産物直売所が循環型農業の拠点として機能しているケースもあります。例えば、地域内の生ごみなどを回収、たい肥化し、そのたい肥で作られた農産物を直売所で販売する、といった取り組みを行政との連携の中で行っている直売所もあります。
また直売所は昔ながらの手仕事でつくった竹細工や藁細工といった、小規模でも地域にある資源を有効に利用した魅力ある商品の販売場所にもなってきました。つくる責任とつかう責任に立った生産と消費の在り方を、長年模索してきたと感じる直売所も多いのではないでしょうか。
さまざまな共通点があるSDGsと直売所。今後、どのようなアプローチを進めるべき?
SDGsが掲げる目標は、これまで農産物直売所が目指してきたものに非常に近い部分が多々あります。生産者・消費者だけでなく、行政関係者など、多くの人が出入りする直売所がSDGsを意識することで、地域社会が少しずつ変わっていくかもしれません。
とくに著しい気候変動は農業に大きな影響を及ぼします。環境に配慮した農業生産を行う生産者も増えています。直売所でも、減農薬栽培や有機栽培といった環境に配慮した栽培方法でつくられた農産物が以前よりも増えてきたように感じます。
栽培方法だけでなく、近年ではソーラーシェアリング(営農型発電)など新しい農業の形も生まれています。太陽光をはじめとした自然エネルギー(再生可能エネルギー)の活用は珍しいものではなくなってきており、道の駅などを中心とした大型施設ではメガソーラーの設置なども行われています。太陽光だけでなく、小川や農業用水など既存の水力を使って発電する「小水力発電」の可能性も注目されています。小水力発電で農産加工施設を運用し、6次産業化を進めている地域もあります。
太陽光・小水力・薪など……さまざまな自然エネルギーを使った取り組みが各地域で進んでいますが、もちろんそれぞれ一長一短があります。今後はそれぞれの地域に合ったエネルギーの在り方を検討していく必要があるでしょう。直売所はそうした活動の拠点として、または受け皿として機能していくことが求められるようになるのではないでしょうか
※この記事は「産直コペルvol.38(2019年11月号)」に掲載されたものです。