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【特集 集落営農】座談会 “集落営農の今”をどう考える?

広島県尾道市で、地域の本音を聞きました。

耕作放棄地の増加や担い手不足などを背景に、地域の農地を集落単位で管理する「集落営農」の組織化や法人化の取り組みは全国各地で進められてきた。そうした動きが活発化してから約10年。集落営農組織は、担い手の高齢化などの課題に直面し、再び岐路に立っているといっても過言ではない。集落営農は今どうなっているのだろうか?集落営農組織運営者、直売所運営者、行政の立場から本音を話してもらった。 (文責:柳澤愛由・羽場友理枝)

左から、池田三夫さん(尾道市役所御調支所まちおこし課まちおこし係 課長補佐兼係長)、谷河勲央さん(農業組合法人徳永郷 代表理事)、綾目文雄さん((有)アグリサポート代表取締役・農産物加工センター工房代表 道の駅クロスロードみつぎ直売所「野菜市」副代表)、福田和美さん(農業組合法人ほのぼの徳永 前代表理事)、森貞夫さん(農業組合法人今津野東 代表理事)、山根信行さん(農業組合法人丸山城 代表理事)

集落営農が始まったきっかけ

編集部(以下、編):まずは、集落営農を始めたきっかけを教えてください。

山根信行(以下、山):放棄地が増えるのを止めないとっていう危機感が一番のきっかけでした。年寄りしかいない家が増えてきて、担い手が減るのは目に見えているし、集落をどう守っていくかが共通の課題になったんです。

森貞夫(以下、森):私のところは、約16年前に「担い手育成型圃場整備(※1)」をしました。当時、国の制度の「担い手」は個人を想定していたのですが、広島県が全国でも先駆けて法人が担い手になれるようにして、集落営農法人が作られました。いざ営農法人を作ろうとなったらなかなか進まなくて、私は当時圃場整備に関係していなかったけど、無理矢理引き込まれた形になりました。

福田和美(以下、福):うちも、「担い手育成型圃場整備」がきっかけで始まりました。中には組合に入らない人もいましたが、始めから法人を作るつもりだったので準備はしていましたね。

谷河勲央(以下、谷):私のところは皆さんより始まりが遅く3年前の設立です。はじめは、福田さんのいる「ほのぼの徳永」設立時に徳永地区の山側と川筋の集落で一緒にやろうと話があったんですが、当時の担い手だった親世代で準備が立ち切れてしまいました。それでも設立することになったのは、昔自分達の集落で作った水路が少しずつ壊れ始め困っていたら、圃場整備事業を利用すれば水路もある程度整備できるとのことで、法人設立に至りました。

綾目文雄(以下、綾):谷河さんはよく地域の人をまとめたよね。できないかと思ってた。

谷:10年経って世代が変わってきたことと、水路のことで必要が出てきたからまとまりましたね。

山:当時、徳永と郷で一緒に始めていたら中山間地直接支払いの支援金も一緒に恩恵を受けられていただろうね。

谷:今、支援金がないのは大変。もともと川筋の集落である郷は田んぼに入るのも、水にもそんなに不自由しないから、まとまるのが遅かったのだと思う。危機感が違ったんだろうね。

綾:便利でいいところだからね。 山:便利でいいところはみんな遅れてる。川筋はみんな遅れてるわ。

集落営農の本音

編:集落営農を始めた当初と変わってきたことはありますか。

山:当時考えてた営農の形が崩れてきた。当時は面整備をしたらバラ色だって言われてたし、私達も思ってた。

森:土日に作業すればいい、定年後はそこで農業できるって言われていたしなぁ。当時は深く考えず引き受けたけど、私が理事になって70歳になって変わってくれる人がいるかなと思ったら誰もいなくて、気付けば80歳になった(笑)

山:昔は兼業農家も多かったけど、今はみんなそんな余裕がないし。イノシシさんが来ないように、田が荒れないようにって祈るだけ。

今わしらがやっとるんは荒さんだけのディフェンス農業なんよ。(福田) 森:もう営農法人やめようかって集落の人に言うと草だらけになるのは困るっていうから続けているのが現状だといえるかもしれないね

課題は担い手

編:今後の地域農業の担い手についてどう思いますか?

森:集落営農は、人がいるところなら存続できるけど、後継ぎがいないような場所でやったら大変なことになる。集落営農っていう、集落の人が手伝いに出るような当初の形は、今はほとんど機能しない。うちは人を雇ったけど、奥の集落だから人も雇いづらくて大変だよ。

福:法人が法人に作業部門を外注してやっていくようにもなると思う。作業者よりも、作業を外注してでも農業を采配できる、頭で考える農業ができる人材を探さないと集落営農は残っていけないと考えてるよ。

森: でも雇った人も、サラリーマン農業だから8時〜17時で作業をやめちゃう。昔の農業から考えたら、繁忙期の日の長い時はもうちょっとやってほしいなって思うけど、そうもいかないしね。

綾:農業は労働法に縛られないから、時間外労働払わなくてもいいんだよ。

森:そりゃ、いいのはわかってるけど、それをやると人が来なくなるよ。

全員:(笑)

綾:農閑期はどうしてる?繁忙期と時間調整できるでしょ。

森:遊ぶ(作業しない)時間が多くなってる。水稲だけだと農閑期に仕事がなくなるから、ハウスとかを用意しているところだけど、なんとか稼げるものをしないと人を雇えない。

綾:休みはどうしてる?

森:土日祝と雨の日は休み。農繁期の5月は全部出てきてもらうけど、後でまとめて休み取ってもらってる。

福:毎日出るって言っても、一ヵ月くらいのもんでしょ。

森:農業は厳しいイメージがあるから、休みくらいちゃんとしないと人が来なくなってしまう。

福:広島県が500万円出しますって言ってるけど新規就農者も増えないし。

森:今の60代は親世代が機械化された時代だから、手伝っていないし、農業をしたことがない。定年しても「さあ、やったことない農業しようか」って人は多くない。山奥にいても農業しないよ。

綾:定年も引き上げられたから65歳で定年して、新しいことしようかって意欲は出てこないだろうね。

森:田舎には農業したいって人はもういないね。どっかから集めてくるしかない。

山:町の人の方が、魅力を感じるんだろうね。田舎の人はもういいって思ってる。 福:うちの法人は、農作業もサンダルでできるくらいにしているよ。トラクターは冷暖房完備して、「農ガール」といわれるような、女性にも作業ができるような環境を準備してる。後継者がいなくなったらそういう人も来られるように考えないと。

直売所と集落営農法人の関係は

編:集落営農法人と道の駅クロスロードみつぎ(直売所)との関係はありますか?

綾:直売所の農家の高齢化は顕著で、品物も少なくなるし……。だから直売所として一番期待していたのは営農法人だったんだよ。だけど今津野東さんも丸山城さんも出荷を辞めてしまったし、逆方向に行っててなぁ……。

森:直売所は結局家庭用だからね。法人が商品をたくさん出すと一気に値が下がるし、晩に持ち帰るとか、動くことすべてが人件費になってしまうから、儲けにならないんだよなぁ。

山:直売所にも前は出していたけど、今は直売所用に野菜を作るといっても、その現場を預かる人がいない。直売所は野菜とか多品目の農産物が必要でしょう。野菜は草との戦い。給料を払わないとだから、作る方が高くなるし。ネギで計算したら、いいものを作っても10アールで毎年40万円の赤字が出ていた。経理としては水稲の端境期にネギの収入が10万とかあるとありがたがってくれるけど、トータルで見ると結局赤字なんだよ。

谷:私たちも枝豆を作って出荷していましたが、昨年は手がかかることもあってやめてしまいました。

綾:でも枝豆を出してくれてた時の方が活気あったんじゃない?あの活気がなくなってしまうんじゃないかって心配。

谷:枝豆を出したあとの呑み代の方がかかってた(笑)

直売所の担い手として一番期待してたのが集落営農法人。でも逆方向になってしまった。(綾目)

編:法人化したからこそ多品目少量生産の生産者が多い直売所とは関わりにくいんですね。直売所向けの野菜を作ることはやっぱり難しいのでしょうか。

福:直売所に出してあげたい気持ちもあるんだけど、専従がいる法人は少ない。土地も水もあるし条件はあるんだけど、作る人と采配する人がいない。法人は米が主体だから、いくら農業していると言ったって、水稲の作り方はわかっても野菜はわからないからね。

谷:僕らだって野菜を作れって言われても肥料から何からやり方もわからない。

福:うちの集落でまだ動ける人に、いくらか収入になるから野菜作る気はありますかって聞いて回ったら、全員NO!今は、2ヵ月に1回年金が入るし、野菜もいくらでも売ってるし。もちろん直売所みたいに、曲がったキュウリでも売れる受け皿があることはいいと思う。でも、それに乗ってくる人が少ないよね。

編:乗ってこない理由は何ですかね。

福:年金よ。

全員:(笑)

福:明日のご飯もわからなかったら、必死に曲がったキュウリでも頑張って出すよ。

谷:専門の人が教えてくれて、販売含めてちゃんと結果が出るならいいけど、取り組むだけのノウハウがないし、有志でやるならいいけど、法人としては厳しいね。 福:御調町の場合は、直売所があって、リピーターもちゃんといるけど品物がない。じゃあ法人が関われるかっていうと、やっぱり接点が違って、直売所は一般の家庭菜園をする人が余った分を出荷する場所という側面もあるでしょう。我々は市場が相手。結局売り先のパイが違うと思うね。

農産物の単価を上げる6次産業化

編:結局、直売所で販売される単価では収益にならないという結論になってしまうのですね。単価を上げるために6次産業化も選択肢にありますが、どうですか?

福:経営規模によるね。米を基盤にした良いものがあれば、やってみたいけど。ポン菓子をいっぱい作っても売れる量は限られるしね(笑)。ドブロクも日本酒もいいなと思うけど酒税法でなかなか厳しいし。

谷:お酒でいうと、酒米って180センチ以上の背丈に育つんですね。酒米は、収穫量は悪いが値段がいいって言いますけど、こりゃ大変だって思いましたよ。尾道の海側はレモン御殿が建つくらいに活気があるし、果実酒が人気ですよね。御調町でも何かできないのかな。

池田三夫(以下、池):尾道市としても取り組みたいと思って、6次産業化研究会を作って綾目さんや丸山城さん達と考えてはいるけどね。収益がうまく上がっていない。いいものがあれば、協力して作っていきたいと思うのですが。

綾:米粉はどうなの?米粉パンとか。

福:米粉はね、海外のものがタダみたいに安いのがあるんだよ。米は関税がかかるけど米粉はTPP外だから。餅も安いところのは餅米の粉を海外から買って、日本産と混ぜて美味しくして売ってるから、値段が太刀打ちできない。

編:クロスロードみつぎではいくつか6次化の取り組みがあると思いますが、概要を教えて頂けますか?

綾:私も運営に関わっている「活菜工房(加工所)」が、ピクルスや漬物、ドライの加工品を作って販売しています。今のところうまく行ったのは里芋と白瓜かな。いいものは生で売って、いまいちなものは皮をむいて加工して売って。里芋は田んぼでも作れるしね。

福:例えば直売所も加工所で使うような農産物の品目を指定して法人にお願いしたらいいんじゃない。

谷:これをこのくらい作ってくださいって、品種限って言ってくれたら取り組んでみようかなと思いますね。

綾:今の加工と生で売るのをもう少し試行錯誤してみてうまく行ったら、法人さんにも頼んでみたいね。野菜だけで見たら、野菜に特化した生産者に負ける。だから加工して付加価値をつけて売るようなことを探るのも大切だね。

地元の産直みたいに地域の農業をわかっている人からの提案があれば乗ってみようかなと思うよね。(福田)

福:カット野菜の一人分が売れる時代だしね。もう少し知恵を出して、お互いにメリットのある関係性が築けたらいいかもしれないね。

編:例えば直売所と集落営農法人とのコーディネート役を行政が担うことで、直売所の担い手不足と集落営農法人の収益面の課題を互いに解消できるような関係性を築ければ、今後の可能性が拓けるかもしれませんね。

池:そうですね。行政でもそうしたお手伝いはしていきたいですね。

福:県とか国がお勧めしたもんは失敗するって、もうわかりきってるしね。

全員:(笑)

池:確かに一時期ジャンボニンニクと尾道パパイヤをしたけど、あんまりでしたね。

福:変わったものは需要がないよね。

谷:需要ができるまで続くかも難しいしね。

綾:マスコミは珍しがって取り上げてくれたけど需要が大事だから。いっぺんに広い面積やるからいけないよね。細々とやって需要を作ってから大きくすればいいんだけど、先に作ってから売り先探すから。

谷:作る側としたら、売れるとこがあるか見てからやるよね。

編:テスト販売の場所としては直売所も活用できそうですね。 福:地元の直売所みたいに、地域の農業をわかっている人からの提案があれば、乗ってみようかなとも思うよね。冬にそうした野菜をやってみることができるといいけどね。

集落営農を継続するには

森:集落営農はみんなの意思が一緒にならないと本当に難しい。特に今の時代は。本当にやる気のある人だけが集まってやる方がうまくいくと思うから、うちは株式会社に変更しようと思っている。結局これまでの集落営農はディフェンス農業だったんだと思うよ。でもこれからは、本気農業をしていかなきゃ、地域は守れない。

本気農業していかな地域は守れん。(森)

綾:株式会社でいくつかの地域の農地を預かって作業するから、「反当負担金出しなさい」ってして管理してくのも考えられるね。

谷:ありえますよね。それでできなければ自分たちで管理してくださいってね。もう集落の人がまとまって作業をするという関係性から、できる人材が地域の農地を請け負って耕作していくという関係性に変化していかないと、農地は守れないと思う。もう集落は集落の人間だけじゃ守れない状態までに来ているからね。

池:やっぱり、その集落で活躍できる人材確保が課題ですね。

森:頼れるとこがなくなってきているしね。法人連携できればいいけど。

福:経営の単位が違うからなかなか難しいけど、今後は連携して「2階建方式」を考えざるを得ないなって思うね。

谷:集落にできる人がいなくなったら、やるしかないですね。

編:集落営農はかつての「集落がまとまって農地を耕作する」という性格だけでは継続が難しくなってきているのですね。法人同士が連携したり、直売所を含めた地域の事業者と連携したりすることが今後の鍵を握っているのかもしれません。

 直売所としても、集落営農法人の方々に関わってもらえるような受け皿づくり、仕組みづくりをしていくことが求められているように思います。  集落営農法人も直売所も、地域の農業を守っていくという共通の思いを持っていると思いますし、連携のあり方はまだまだ模索できるような気がします。みなさん、ご協力ありがとうございました。

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産直コペル 編集部
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