直売所

【直売所訪問記】「兵庫編」 西脇市立農産物直売所 北はりま旬彩館 (vol.36より)

全国の農産物直売所を巡ってご紹介する「直売所訪問記」。今号は兵庫県の直売所「はっぱや神戸野菜ごはん」を訪ねた。(文・羽場友理枝)

代表取締役藤原晃さんと店長の藤本美千代さん。西脇高校の生活情報科の生徒が、西脇市のPRとして播磨織の布を使って毎年エプロンを作ってくれている

 今回訪問したのは、東経135度北緯35度が交差する「日本のへそ」にある兵庫県西脇市。出荷者全員が自分の店と思い、積極的に活動し、右肩上がりの経営を続けている西脇市立農産物直売所北はりま旬菜館の代表取締役藤原晃さんにお話を伺った。

地域に根ざした直売所

同店は、株式会社北はりま旬菜館が運営する直売所だ。設立してから2年半ほど市の外郭団体である公社が運営していたが、平成25年から出荷者の会を株式会社化し、指定管理を受け運営を代わった。指定管理の声は市からも生産者からも時を同じくして出てきたそうだ。当初は、売上に応じて管理料を市に支払っていたが、売れる量が増えるにつれ人件費などの経費も増えたため、市への管理料はなくなり、自分たちで経営することになった。今も市から指定管理料を受けながら運営しているが、独立採算が可能な施設を目指しているそうだ。
 出荷者数は258名で、年間約2億円を売り上げる。客層は、地元客が約7割を占める地域に根ざした店だ。仕事終わりに来店する人も多いため午後6時の閉店間際まで賑わっている。

商品の補充に来ていた出荷者の漁師さん。イノシシ肉が手軽に手に取れるのも直売所ならでは

右肩上がりの運営

2011年から7年間の売上推移を見せていただくと、右肩上がりで増加していた。思わず理由を尋ねると、「生産者ひとりひとりが自分の店を経営しているという感覚が強いと思いますね」と藤原さんは話してくれた。
 店の運営を支える出荷者協議会には、イベント部会、育苗部会、広報部会、加工部会があり、5月の総会時に部会の募集を張り出しておくと、生産者が各々希望の部会に参加してくれ、各部会長を中心に部会の活動が行われる。
 例えば、直売所のイベントは、イベント部会が中心に企画する。春のイベントでは、タケノコのたきこみごはんや天ぷらを出荷者が用意し、販売した。毎月のように開催されるイベントは買い物客にも好評だ。「タケノコのイベントはものすごい人が来て、レジもすごく並んで、『なんでこんなに並ばせるんや!』とクレームもありました」と藤原さんの言葉から、お店の盛況ぶりが伺える。
 広報部会では毎月「北はりま旬菜館だより」を発行し、一部の地域に配布している。この便りでは直売所の旬野菜の紹介や、店長である野菜ソムリエの藤本さんの記事、出荷者が講師になって行う講習会のお知らせなどが掲載されている。広報部会に若手農家が入ってくれたことも起因し、ホームページやフェイスブックの改装や運用も拡大しているそうだ。
 他にも、出荷者同士の勉強会なども行っており、先日は山芋講習会を行い、山芋を作って30年と言う山芋名人を講師にノウハウを教えてもらったという。
 部会制というのはよく見かける気がするが、野菜ごとの部会制ではなく、直売所運営に関する部会制であることが、同店の生産者が自分の店として感じる一因になっているのかもしれない。

直売所の内観

出荷者との関わり

 藤原さんがこだわっているのは出荷者との関わり方だ。藤原さん自身も出荷者であり、店側も出荷者を仲間と思って運営している。「直売所として、買ってもらうのはお客さんですが、出荷者もお客さんという意識で大事に考えています」。藤原さんは定年退職後に就農し、当初は別の直売所に出荷していた。その直売所では出荷してもあまり親切ではなく、「そこに置いといて」と指示されるだけだったそうだ。荷物を出荷するだけの文字通りの「出荷者」として扱われることが物足りなく感じた。その経験から、この直売所では出荷者もお客さんと同じくらい大切にしたいと思っている。
 出荷者との情報共有も密に行っている。毎朝オープンの30分前である9時頃までには商品を出荷してもらっているが、品物が切れ始めると一斉メールを流す。イベントの時は、量を増やして欲しい旨のお願いメールや、終わった後の報告も欠かさず行い、店全体の売上を共有している。
 藤原さんの携帯電話には出荷者の電話番号が全て入っていて、商品が足りていないと思ったら、その度に連絡しているそうだ。ラインやメールなど、一番その人が見てくれそうなツールで送っているという。最高齢の方で89歳だが、年齢関係なく、メールも駆使しているそうだ。
 「出荷者は高齢の方もいるので、ちょっと顔を見ていないと思ったら、お亡くなりになられていることもあります。ご挨拶に行って、家族の方が『直売所へ出荷して、売れた時に来るメールを楽しみにしていた』と話してくれると、寂しい反面、生きがいになれていたと嬉しく思いますね」と藤原さんは優しく笑う。
 時には、高齢の出荷者が、作物が畑にできた状態で入院してしまい、代わりに畑に採りに入って、袋詰めしてその人の名前で出荷することもあるそうだ。「毎年1人くらいはいらっしゃいますね」と藤原さんは笑う。直売所だからこそできる支え合いの形だ。

館内にある加工室旬香房代表の時本さんと店長。旬香房の海苔巻きは人気の加工品だ

農家さんとお客さんを繋ぐ中継点として

今後のことを聞くと、有機野菜を中心にしたコーナーを作りたいと考えているそうだ。西脇市内にJAS認定を受けた農家さんはおらず、周辺地域のオーガニックの会と協力して、西脇市内の農家さんにも有機栽培を広げたいと考えている。「結構、需要があるんです。西脇市内のレストランでも、有機野菜を使ってこだわっているお店が何軒かありますし、直売所にレストランの方も買いに来てくださっています。レストランと農家さんを繋ぐ中継点として直売所が機能していきたいですね」と藤原さんは言う。今後は、農家さんとも協力してレストランの人が欲しいものを作っていくことも考えているそうだ。
 もう一つは、若い人が農業で生活できるような仕組みを作りたいと藤原さんは考えている。「我々は年金があるから生きていけるけど、若い人が農業で生計を立てるのはまだ厳しいですね。仕組みを作っていけたらといろいろ考えています」と言う。他にも仕事帰りに買い物に来るお母さんのためのカット野菜を作りたいなど、藤原さんのお話には、買い物客や出荷者の顔が浮かんでいた。地域の需要に合わせ、地域のためにできること、出荷者のためにできることを考えた先に直売所の繁栄もあるという姿は幸せなことだと感じた訪問だった。

西脇市立農産物直売所 北はりま旬菜館 兵庫県西脇市野村町800-1 TEL:0795-24-7900 FAX:0795-24-7910

※この記事は、『産直コペル』Vol.36(2019年7月号)に掲載したものです。

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