LFP

LFPの挑戦 ー「食」に関するプラットフォームを通して地域の明日を拓く道を探るー

地域資源を活用した新商品・新サービスの創出は、地域経済を牽引する力として期待されている。多様な主体の連携による取り組みを支援しているのが、農林水産省が進めるローカルフードプロジェクト(LFP)だ。2021年のスタート以来、全国各地で様々な取り組みが生まれており、当社・産直新聞社も長野県LFPの事務局を務めている。LFPが進めている「食」に関するプラットフォーム構築の持つ意義を体系的に整理し、効果的な設計、運営を提案する論考が、日本大学大学院の神井弘之教授から寄せられたので掲載する。

二層構造のプラットフォームが地域の明日を拓く

本稿では、農林水産物などの地域資源を活用して、新たなビジネス(商品・サービス)を創出するため、多様な関係者から構成される「食」に関するプラットフォームを構築することを提案する。農林漁業や食品産業は地域と密接に結びついているため、これらを核として、これまでも食料産業クラスター、農商工連携、6次産業化などのアプローチで地域経済の活性化に向けた取組が進められてきた。特に、最近では、環境問題の激化や原料調達などのリスクの顕在化、地域資源を活用した新しいビジネス機会への期待などから、多様な関係者が参画し、協働する取組が注目されている。こうした取組を意図的に増やし、活性化を促す仕組みとして「食」に関するプラットフォームを位置付けたい。
このプラットフォームの重要性に着目して企画され、国内の様々な地域での挑戦を支援しているのが、農林水産省によるローカルフードプロジェクト(LFP)である。
今回は、まず、地域のプラットフォームへの期待、プラットフォームが有効に機能するための課題について整理したい。ここで言う課題とは、開放性(開こうとする力)と凝集性(まとまろうとする力)のジレンマである。その後、LFPの実践活動などからヒントを得たプラットフォームのデザイン(開放性と凝集性を両立させる二層構造)について提案する。さらに、次号で、具体的な地域での実践活動を分析し、その結果から導かれる二層構造のプラットフォームのデザイン、運営のポイントについてご紹介し、今後の発展に向けた展望を示すこととしたい。

プラットフォームへの期待
ー地域の競争力、イノベーションを産み出す土壌ー

多くの先行研究が、地域で関係者が相互につながっているネットワークの構造や、関係者の協調行動を活性化する社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)の状態が、地域の競争力向上やイノベーション創発の実現を左右すると指摘している。言い換えれば、地域の経済活性化のためには、「人々の協調行動を活発にすることによって社会の効率性を高めることのできる「信頼」「規範」「ネットワーク」といった社会組織の特徴(パットナム(※末尾の参考文献参照))」を活かすことが求められる。関係者を信頼し、協力できるか、積極的に情報を共有できるか、新たな挑戦のリスクを負えるかといった点が、競争力強化やイノベーション創発のポテンシャルにつながるからである。
ただ、地域の競争力強化、イノベーション創発に貢献できるネットワークの拡充、ソーシャル・キャピタルの蓄積が重要だと認識することと、その実現のために具体的な行動を起こすことは別次元の問題である。具体的に何から着手すれば良いか。地域で「食」に関するプラットフォームを構築することが効果的である。ネットワーク、ソーシャル・キャピタルへのインパクトを意識してプラットフォームを設計することによって、より操作可能性、検証可能性の高い運営が可能になる。本稿では、「地域の農林漁業者、食品企業、金融機関、地方自治体、大学等研究機関などの多様な関係者が集い、協力して、イノベーションの芽を育み、新たな商品・サービスを開発する仕組み」を、地域の「食」に関するプラットフォームと位置づける。このプラットフォームが実際に稼働することを通じて、地域のネットワークが拡充され、ソーシャル・キャピタルが蓄積される構図である。さらには、自己組織化し、進化する地域のビジネスエコシステム(生態系)の構築につながることを期待したい。

プラットフォームの課題
ー開放性と凝集性のジレンマー

地域経済活性化のためには、多様な関係者や知識・技術などを呼び込み新たなアイデアを生む際に求められる「開放性(開こうとする力)」と、関係者が結束して実践活動を展開する際に求められる「凝集性(まとまろうとする力)」の両方の特性が発現されるよう、プラットフォームを設計し、運営することが必要になる。
例えば、ソーシャル・キャピタルには、「異なる組織間における異質な人や組織を結び付けるネットワーク」である橋渡し型(開放性に対応)と「組織の内部における人と人との同質的な結びつきで、内部で信頼や協力、結束を生む」結合型(凝集性に対応)のタイプがあるとされている(パットナム)。地域経済の活性化を考える際には、これらのソーシャル・キャピタルのタイプ別の特性を考慮して、その蓄積や活用の作戦を練る必要がある。
この開放性と凝集性の両立は難しい。森嶋(※末尾の参考文献参照)は、ネットワーク、ソーシャル・キャピタルに関する先行研究を踏まえて、「アイデア問題とアクション問題の相克」を紹介している。情報の流れが効率的な、「薄い」ネットワークでは、新たな「アイデア」は導入されやすいが、それを実行に移す組織力が伴わない。逆に、密に相互接続する「厚い」ネットワークでは、アイデアの普及とその実現(アクション)に必要な動員面が優れているものの、閉鎖的でイノベーションの発生を減らす危険性があると言う。「あちらを立てれば、こちらが立たず」という構図だ。
また、同様の問題意識から、地域のイノベーション政策と知識を創出するための取組に関する重要な課題として、物理的・心理的な関係者の間の近接性を高めるメカニズムを作り出すと同時に、多様性と開放性を高めるため関係者の間に十分な距離をとるメカニズムを作り出す必要があることを指摘している研究もある(Harmaakorpi & Rinkinen(※末尾の参考文献参照))。
このように開放性と凝集性の両立が可能な状態をいかに出現させるか。地域プラットフォームの設計において重要なポイントとなる。

LFPの実践活動が示唆する 解決策

農林水産省のLFPは、2021年度にスタートし、都道府県を主な対象として「地域の多様な関係者がそれぞれの経営資源を結集させてプラットフォームを設置して、 地域の社会課題解決と経済性が両立する新たなビジネスを持続的に創出する仕組みづくり」を支援している。2023年度には30道府県でプラットフォーム構築を支援しており、対象の地域プラットフォームには、着実に参加者数を増やし、新しいビジネス創出につなげている事例も少なくない。
LFPに関係する意欲的な地域プラットフォームの多くは、地域独自の問題意識に基づいて個性的な活動を展開しているが、その設計、運営には興味深い共通点も見受けられる。地域のプラットフォームに多様な関係者が参加し、協働することを通じて、新たなビジネスが継続して生み出される土壌を作るため、どのような設計を行うことが効果的なのか、LFPに関係する実践活動からヒントを得ることとしたい(なお、具体的な地域の実践活動については、次号でご紹介する予定である)。
まず、意欲的なプラットフォームの目的を見ると、多様な関係者の参画・交流、オープンイノベーション、各々の知識・技術・経験等の結集など、プラットフォームの開放性を意識し、イノベーションの創発、競争力強化を目指していることが明確にされている。実際の参加者を見ても、農林漁業、食品製造業、飲食業、金融業、大学・研究機関、医療福祉事業、情報通信事業、卸・小売業、観光・宿泊関連産業など、多様な関係者の参画が実現されている。
注目すべきは、プラットフォームの構造である。意欲的な実践活動では、都道府県によるヒアリング、アンケート等を実施して、参加者(参加予定者)の関心事項を抽出し、その要望に沿う形で複数テーマを設定して、テーマごとにグループを組成し、具体的なビジネスに関する検討、実際の試作品製造、販路開拓等の取組を進めている。
幅広く多様な関係者を誘引する全体のプラットフォームを土台としつつ、具体的なビジネス実践を想定したテーマ別グループを設定し、参加希望者を募って活動を展開しているスタイルである。地域プラットフォームへの参加者を確保し、学習機会等の提供やマッチングを行う部分と、その後、参加者による新たなビジネス開発を支援する部分を意識して区分することにより、活動が活性化している。言い換えると、プラットフォームを二層構造として設計し、第一層で開放性の確保を図り、第二層で凝集性の確保を図っている構造と解することが出来る。

開放性と凝集性を両立する 二層構造のデザイン

これまでの関連の先行研究の蓄積に加えて、LFPの実践活動から得られたヒントを考慮すると、開放性と凝集性を両立するために二層構造のプラットフォームを設計することが効果を発揮すると期待される。以下、実践活動からの学びを柱に据えて、二層構造のプラットフォームに期待される機能とその設計のポイントをまとめてみたい。
❶プラットフォーム一層目のデザイン
プラットフォーム一層目に期待される機能は、多様な関係者の参集である。ここでは、参加者間での学習、知識・技術の共有、他者とのマッチングなどの機会が用意される。第二層での活動の土台となる場であり、プラットフォーム全体が開放性を確保できるかどうかは、この第一層での参加者の多様性と協調的なカルチャーの醸成にかかっている。  第一層の設計に当たっては、参加者のインセンティブが課題となる。地域プラットフォームは、関係する誰もが参加でき、そのメリット享受について参加者間の競合が起こらないことも多い。特に、参加のメリットについて見込みが立ちにくい段階では、様子見をするため参加を躊躇する関係者が多くなりがちだ。地域プラットフォームの運営に公的機関が関与することが多いのも、このためである。
❷プラットフォーム二層目のデザイン
プラットフォーム二層目に期待される機能は、イノベーションの創発、新たなビジネスの開発である。ここでは、様々な知識、技術の組み合わせによるイノベーション創発や、新しい商品・サービスの開発が検討され、試作品開発、マーケティングなどの活動から、ビジネス具体化に向けた価格設定、資金調達、知的財産権の管理など、関係者間の厳格な利害調整も求められる。権利・責任の所在を明確にし、的確なビジネスプランを描き、着実に実践していくために、メンバー間の凝集性確保が重要になる。また、ビジネス具体化のステージに入ると、ビジネスの権利を有し、責任を負う民間サイドの参加者に主導権を移すことがより適切なケースが増えて来る。公的機関の主導的な関与が求められることの多い一層目とは状況が変化するのである。

むすび   ープラットフォームのフル活用に向けてー

本稿で見てきた地域のプラットフォームの基本的な特性を踏まえると、活動に参加する関係者の量(農林漁業者、食品企業などの数)と参加の質(参加者の積極性など)が向上すればするほど、参加者が得られる恩恵が増すと期待される。農林漁業者、食品企業を始めとする関係者におかれては、こうしたポジティブ・フィードバックの流れをいかに意図的に作っていくかをイメージして、地域のプラットフォームへの能動的な関わり方をご検討いただきたい。ー

【参考】
○内閣府ホームページ「ソーシャル・キャピタルという新しい概念」 https://www.npo-homepage.go.jp/uploads/report_h14_sc_2.pdf (2024年9月14日閲覧)
○ロバート・D. パットナム (著)、 河田 潤一 (訳)(2001)『 哲学する民主主義―伝統と改革の市民的構造』NTT出版
○森嶋輝也(2012)、『食料産業クラスターのネットワーク構造分析ー北海道の大豆関連産業を中心にー』農林統計協会
○V. Harmaakorpi & S. Rinkinen (2020) “Regional development platforms as incubators of business ecosystems. Case study: The Lahti urban region、 Finland.” Growth and Change、 51、 626–645.
○農林水産省「地域食品産業連携プロジェクト(LFP)推進事業」 https://www.maff.go.jp/j/shokusan/seisaku/lfp-pj.html(2024年9月14日閲覧)

著者プロフィール

【現職】日本大学 大学院 総合社会情報研究科 教授
【略歴】愛媛県出身。1991年農林水産省入省。三重県庁マーケティング室長、農林水産省フード・コミュニケーション・プロジェクトチームリーダー、食品製造課長、統計部管理課長、大臣官房審議官(消費・安全局担当)、政策研究大学院大学特任教授/農業政策コースディレクターなどを経て、2023年から現職。