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LFPの挑戦 ー「食」に関するプラットフォームを通して地域の明日を拓く道を探るー 第2回

農山村振興、食料・農業・農村政策などを専門とする日本大学 大学院の神井弘之教授が、農林水産省が推進する「ローカルフードプロジェクト(LFP)」を通じて、「食」に関するプラットフォーム構築の意義やあり方を考える連載企画の第2回。京都府と宮崎県の取り組みを例に、議論を深堀していく。(編集部)
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二層構造のプラットフォームの提案

地域の競争力を強化し、イノベーションを創発する仕組みとして、「食」に関するプラットフォームの構築をご提案する連載企画として、前回は、プラットフォームの機能を発揮するために、開放性(開こうとする力)と凝集性(まとまろうとする力)の両立が求められることをお示しした。また、農林水産省によるローカルフードプロジェクト(LFP)の取組などからヒントを得て、開放性と凝集性の両立を可能にする二層構造のプラットフォームの構築をご提案した。幅広く多様な関係者を誘引するプラットフォームを土台とし、具体的なビジネス実践を想定したテーマ別グループを設定して活動を展開するスタイルが有効に働くとの考えである。
今回は、地域の意欲的な実践活動から、どのような設計・運営面での工夫が、プラットフォームの開放性と凝集性の両立に効果的であるか、ご紹介することとしたい。

京都府と宮崎県の プラットフォームの設計

全国各地でのLFPの取組のなかから、今回は、相対的に参加者が多く、活動が継続して発展している京都府と宮崎県の実践活動に着目することとしたい。どちらも、地域独自の問題意識を持って設計されており、開放性と凝集性を志向する姿勢を明らかにし、その目的に則して二層構造のプラットフォームが構築されている点で共通している。
まず、京都府と宮崎県のプラットフォームの目的の定義を見ると、「多様な」「交流」「参画」「価値創造」「オープンイノベーション」「知識・技術・経験等の結集」といった具合に、開放性と凝集性が明確に意識されていることが分かる。この目的に則して参加募集が行われており、2024年8月の時点で、京都府では553事業者、宮崎県では270事業者が参画し、活動を展開している。
次にプラットフォームの構造を見てみる。いずれも、多様な関係者が集まる第一層を設けたうえで、複数テーマを設定して、テーマごとにグループ(このグループを京都府は専門部会と呼び、宮崎県はプロジェクトと名付けている)を組織し、具体的なビジネスプランの検討、試作品の製造、販路開拓などを進めている。京都府、宮崎県ともに、参加者(あるいは参加候補者)のニーズを踏まえてテーマを設定しており、そのテーマについて学習、意見交換等を行うこと自体を、参加インセンティブとしている点でも共通している。なお、2023年度の京都府のテーマは、プレミアム中食、健康機能性、保存・流通技術、輸出、フードテックの5テーマ、宮崎県のテーマは、保存食、有機、未利用資源・食品ロス、観光・土産、香り・アロマ、輸出の6テーマとなっている。表1は、京都府、宮崎県のプラットフォームの概要をまとめたものである。

一層目と二層目の 接続・切換えの重要性

プラットフォーム一層目に期待される主な機能は、多様な関係者の参集であり、二層目に期待される機能は、イノベーションの創発、新たなビジネスの開発である。プラットフォームが新たなアイデアを続けて生み出す開放性(開こうとする力)を確保できるかどうかは、第一層での参加者の多様性と協調的なカルチャーの醸成にかかっている。一方、そもそもの目的である地域経済の活性化を実現するため、具体的なアクションを生み出す凝集性(まとまろうとする力)を獲得するには、第二層で参加者の権利・責任が明確にされ、ビジネスプランの詰めを行う環境が整えられる必要がある。
プラットフォームが開放性と凝集性を兼ね備えるためには、その構造を単に二層に分ければ良いという訳ではない。運営面での工夫が重要になる。開放性を重視する一層目と凝集性を重視する二層目での接続・切換えがポイントになる。まず、場の行動規範、コミュニケーションのルールの適用が重要である。例えば、一層目の学習の機会や、アイデア出しのワークショップで一つ一つ権利関係や発言の責任を問われては、参加者の意欲は損なわれてしまう。他方で、二層目の厳しいビジネスの詰めの検討で、主語が定まらないフワフワの議論をしていてはビジネスプランの実現は覚束ない。クリエイティブな意見交換には、「発散」と「収束」を繰り返す必要があるため、程度問題にはなるが、一層目は「発散」を重視、二層目は「収束」を重視した話し合いが求められる。この一層目から二層目の切換えを円滑に実現するため、第三者による調整・介入の仕組みをビルトインすることも効果的な手法の一つである。京都府ではプロデューサー、宮崎県ではアドバイザーという名称で、第三者が関わることで、ビジネスプランの詰めと実践を促している。

戦略的なプラットフォーム 運営の例


ここでは、京都府と宮崎県の様々な運営面の工夫のなかから、参加者の多様性を確保する手法、ビジネスの具体化を促す手法を取り上げ、プラットフォームのパフォーマンスを向上するためのポイントを考察することとしたい。

❶意図的に参加者の多様性を確保する

参加者にとって、プラットフォームへ参画するメリットの一つは、自前のネットワークではつながりのない他者との関係を構築できることである。また、プラットフォーム全体にとっても、構成主体が多様であることは、イノベーティブな活動のポテンシャルを高めることにつながる。自然体で臨んでいては得られない多様性をいかに確保するかが重要になる。
例えば、宮崎県では、プラットフォームの多様性を確保するため、食と縁遠いイメージのある交通機関(航空会社)の参画を得ることで、従来と異なる切り口の検討を可能にした。この検討により、従来の農畜産業の関係者のみでは難しかった、新たな物流チャネルを通じた県産農畜産物の付加価値向上の取組を実現させている。参画する関係者それぞれにとっての課題解決、メリット創出を組み合わせて、WIN-WINの構図を描いたものである。農畜産業者(有機農産物生産者、みやざき地頭鶏生産者)にとっては首都圏向け販路拡大、航空会社(ソラシドエア)にとっては新たな収益事業開拓(立ち上げ時は新型コロナ禍での旅客減に代わる収入源獲得の必要性)、集客交流施設運営業者(いちご、宮交シティ)にとっては、施設運営における魅力的なコンテンツの充実といった組み合わせによる新規ビジネス(空陸一貫の高速小口貨物輸送)の創出につなげている。
この新規ビジネス創出を通じて、公共交通機関との協働(新たな物流)が有効と認識されたため、首都圏へのアプローチの次の企画として、福岡向けに陸路(バス、鉄道)の新規ビジネスの検討が進められている。既存のネットワークから縁遠い事業者等を参画させる機会を意図的に設けることにより、参画者の多様性を確保することが有効であることを示す好例と言える。

❷特定の課題(制約)を設定することで  創発を促す


プラットフォームでの意見交換や検討のテーマをどう設定するかも重要なポイントである。参加者(参加候補者)の興味関心を丁寧に把握することが基本であるが、あわせて、多くの関係者が自分事として関連を見出せる程度のテーマの「抽象度」と、自らにとって固有の参加メリットをイメージできるだけの「具体性」を兼ね備えるテーマ設定が活動の成否を分けている。プラットフォームを運営するサイドの構想力が試される局面とも言える。
ここでは、特定のテーマに関する学習、意見交換を促すことが、関係者の活動に制約として働き、かえって従来と異なる凝集性の発揮、新たなビジネスの創発につながっている事例に注目したい。全てを自由にするよりも、一定の制約条件を課した方が、関係者間での新たな化学反応を促し、創意工夫や協力行動を生みやすい現象である。
京都府のプラットフォームでは、有機農産物の生産・加工を行う事業者(健康ファーム)と流通業者(ビオスタイル)の間で、新商品として「冷凍焼き芋」の開発が実現している。そもそも両社の間には、一定の取引関係があったのだが、フードロスという社会課題を共通テーマとして、プラットフォームの「場」で、改めて意見交換を重ねることにより、規格外サイズのさつま芋の取り扱いがビジネスのシーズとして共有された事例である。既に一定の関係性があるものの、新規ビジネスを検討するステージに到達していない関係者に対して、一定のテーマを投げかけて「場」に制約をもたらすことが、具体的なビジネス化につながったものと解釈出来る。
京都府では、冷凍有機焼き芋のような事例の創発を促す仕組みとして、年度初めに、一定の課題を設定し、興味関心のある関係者を募って意見交換(ワークショップ)を行い、意図的に新たな化学反応を起こそうとしている。今年度も、設定された4つのテーマに対して、意見交換への参加を希望する90事業者が集まり、9つのグループでワークショップを開催、そこから新規ビジネス案も生まれている。

むすび―開放性と凝集性の両立に向けて―

今回は、プラットフォームにおいて開放性と凝集性を両立させるための設計・運営のポイントについて、京都府と宮崎県の事例を踏まえながら考察した。京都府、宮崎県ともに、二層構造のプラットフォームを巧みに設計・運営しており、これから地域プラットフォームを構築しようとする関係者にとって、有益なヒントを示している。
他方で、各地で展開されている関係者の協働によるビジネス創出の取組において、最初から二層構造が成立している事例が多い訳ではない。むしろ、特定のテーマでビジネス創出を検討する二層目の活動が先行することの方が一般的であろう。個別のビジネスの成功の観点から言えば、直線的で効率的な展開である。ただし、これを地域経済活性化という面で捉えた場合、取組を単発では終わらせず、継続して新たな関係者が参入し、次々に新たなビジネスが創発される状態をいかに実現するかが課題になる。この観点からは、一層目の活動を具体化し、開放性を獲得することが重要である。
次回は、プラットフォームの二層目の活動から一層目の充実に取り組んでいるケースを取り上げたうえで、プラットフォームの一層目と二層目の間の連動・往来について論点を整理し、この連載企画で見てきたプラットフォームの設計・運営のポイントを取りまとめることとしたい。

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著者プロフィール 【現職】日本大学 大学院 総合社会情報研究科 教授
【略歴】愛媛県出身。1991年農林水産省入省。三重県庁マーケティング室長、農林水産省フード・コミュニケーション・プロジェクトチームリーダー、食品製造課長、統計部管理課長、大臣官房審議官(消費・安全局担当)、政策研究大学院大学特任教授/農業政策コースディレクターなどを経て、2023年から現職。