大阪市内と奈良県吉野町をつなぐ国道沿いにある「道の駅かなん」。農業を主産業とする河南町で、「野菜を売ること」に重きを置き意欲的な組合員と共に組合員制の昔ながらの運営方法を引き継ぎつつ、改良を重ねながら店舗運営をする「道の駅かなん」駅長の石原佑也さん(41)に話を聞いた。(文・羽場友理枝)
重きを置くのは「野菜を売ること」
大阪中心部から車で約1時間、奈良県と直結する国道309号線沿い、大阪府南河内郡河南町に「道の駅かなん」はある。大阪市内と奈良県吉野町をつなぐ国道沿いにあることから、観光の行き帰りに立ち寄る人も多い。
2004年に開設した道の駅かなんは、建物自体は町の所有で、運営は農事組合法人かなんが担っている。生産者が店舗の運営にも携わる昔ながらの組合員制度が存続しており、現在の組合員は正会員が122名、新規就農者が14名。それに加えて社員2名、パート24名(販売11名、加工13名)で運営している。古き良き慣習である当番制も健在で、組合員が週末交代で店頭に立ち商品整理を行ったり、駐車場整理を行なったりしている。
「野菜を売ること」に重きを置いている同店では、野菜から果物まで1年を通してさまざまな商品が並ぶ。特に人気なのは千両ナスとイチジク、イチゴだそうだ。昨年の売り上げは3億1200万円、その約半分を野菜の売り上げが占める。
また、河南町は観賞用樹(植木)が産業として息づいていて栽培が盛んだ。そのため町内には植木屋が多い。組合員の中にも植木屋がいて、そうした組合員が市場で厳選した商品を同店で販売しており、客は質の良い植木を普通の花屋よりも安価で手にすることができる。いつの間にか「道の駅かなんには、植物が豊富だ」というイメージが客に作られているようで、売り上げ構成比では2番目。野菜に次いで、切り花・鉢花など植物類の売り上げが多いという。
店で販売している加工品の多くは、施設内の加工室で作られている。地元産のヨモギを使い、あんこは小豆から炊いているよもぎ大福やよもぎ団子餅は人気の一品。お弁当類にはリピーターもついているそうだ。
「特別に何かをしたっていうことはないんですよ」。そう言いながらも、昔ながらの直売所運営を存続しながら、地域の課題に向き合い改良を重ねる石原さんの取り組みは、誰でもできることではない。
新規就農者応援プラン
石原さんが駅長になってから取り組んだ数多くの事業の中で、もっとも革新的だったのは新規就農者応援プランだろう。このプランができるまで、同店の正会員になるには、河南町在住であることという条件や、組合加入時の出資金が10万円、加入協力金が15万円、当番制があるといった、他の直売所と比べるとかなり高いハードルがあった。出資金が高い分、組合員の生産や販売に対する意欲も高かったが、新規就農者が参加することは難しかった。
2017年から河南町を含む南河内地域で新規就農のイチゴ農家を育てる取り組みが始まり河南町でも新規就農者が増えてきたが、販路がなく困っていることを知った石原さんは、そんな状況を変えようと組合役員とともに積極的に取り組んだ。
新規就農者応援プランの会員は、販売時の手数料率は正会員(13%)よりも2%高くなっているが出資金を免除されている。また、組合立ち上げ当初の人と後から入る人の発言権等に差が出ないように設定されていた加入協力金15万円も、この機会に撤廃した。現在は「河南町在住」という規定も「在住場所に関わらず同町内で農業に従事する農民」に変更されている。
「加入協力金については、既に支払った一部の組合員から役員に異議申し立てがあったそうですが、今後の運営を考え進めさせてもらいました」と石原さん。金銭に関わる改革は、特に二の足を踏むことも多いが、石原さんは店の将来を考え一歩ずつ歩みを進めている。
なにわの伝統野菜
河南町は、100年以上前から栽培されてきた「なにわの伝統野菜」の作付け面積が大阪府1位の町だ。「作られなくなってしまった大阪府の伝統野菜を漬けてみたい」と漬物屋さんが大阪府の施設に相談し、栽培に向けた取り組みがスタートし、その後、正式な栽培依頼と漬物屋さんの想いが河南町に舞い込んだ事がきっかけで、依頼を受けた農家さんが一念発起。大阪府・生産者協力のもと、伝統野菜の栽培が復活した。
2005年に大阪府がなにわの伝統野菜認証制度を始めたことで、伝統野菜の認知が広がってきていて、同店ではその販売にも力を入れている。
同店では「毛馬きゅうり」「金時人参」「田辺大根」「碓氷豌豆」をはじめ、約10種類の伝統野菜が年間を通して店頭に並ぶ。給食食材としても伝統野菜を納入し、給食を通して子どもたちが地域の食を知る機会も提供している。
しかし、近年生産者の高齢化で伝統野菜の作付け面積が減ってきていることを石原さんは危惧している。「新規就農者や他の生産者に作ってもらうには、ただ頼むだけでなく売り方も考え、直売所としてできる施策と一緒に提案しないといけないと思っています」と石原さん。その言葉からは、同店にさまざまな野菜が並ぶ理由はただのラッキーではないことが伺える。
種類豊富な野菜が並ぶ理由
同店で種類豊富な野菜が並ぶ理由には、組合員とスタッフの密なコミュニケーションがある。出荷に来た際の声かけや雑談はもちろんのこと、開設当初から組合員向けに配っているたよりには、売り上げ額、作物ごとの売れた点数や前月比、前年同月比など細かい数字も掲載されている。こうした直売所からの情報提供をもとに、組合員も自ら考え作物を作っている。今では、珍しい品種の野菜を作る人、定番の野菜を作る人とバランスも良くなり、直売所には毎日豊富な野菜が並ぶようになったそうだ。
他にも、レジデータから組合員宛てに毎日配信されるメールには、組合員からの要望を受け、2020年7月からその日売れた野菜トップ10のランキングを追加した。
「メールにコメントも入れられるので、少しでも野菜を出しやすい雰囲気を作れるように、明日はこの野菜がほしいとか、これが今人気だとかコメントを毎日入れるようにしています」と石原さん。
初代駅長の時から行われている方法に少し加えただけと話す石原さんだが、日々積み重ねられている「あたりまえ」が同店を支え、前進させていることが伝わってくる。
なぜ、直売所へ
石原さんと直売所の関わりは何だろうか。農業に興味があったのかと問えば、農業に関わる仕事につくとは思っていなかったという答えが返ってきた。「高校も工業高校で農業とは関係ありませんでした。祖父が農業をしていたので、見ていましたし、手伝ったことはありましたが、それくらいですね」と話す。
同店との出合いは、町内のスポーツジムで働いていたところを初代駅長に声をかけられたのが始まりだそうだ。開設から2年後の2006年同店に入社した。入社から8年、初代駅長のもとで業務を行っていたという。
「直売所運営は教わるなり、見て盗むなりしながら学んでいました。自分なりにこうした方がいいとか考えることが好きなので、見て盗む方が多かったかもしれません」という石原さん。野菜の販売に関しては店で生産者や客との会話の中から学んでいったそうだ。
駅長交代は突然のことだったが、その当時役員会で承認され、石原さんが引き継ぐこととなった。引き継いだ当初は、「こんな道の駅にしたいとかそういったことを考える間も無かったです」と石原さん。今も行動しながら考えて、役員会にはかりながら試行錯誤しているという。
「リニューアルオープン、新規就農者応援など、駅長を引き継いでから新しいことはいくつも取り組んできましたが、全て手放しに上手くいっているとは思えません。変えた以上それでやっていくしかないので、腹を括ってやっています」と石原さん。常に現れる課題に奮闘しながら運営されているのが窺える。
全国農産物直売ネットワーク
石原さんは現在、店長職の傍ら全国農産物直売ネットワークの幹事も務めている。同団体は現在、全国の直売所のネットワークづくりと情報発信を進めており、石原さんは主に、メンバーが集う全国農産物直売サミットの内容検討をしているそうだ。
忙しい合間を縫ってまで同ネットワークに参加する理由を聞くと、「地域を広くしたイメージです」という答えが返ってきた。日本全国、高齢化など共通の地域課題を持っている所は多い。石原さんは、地域の課題解決には人数がいた方がいいと考えていて、ネットワークは他の事例も聞きながら皆で考え、それぞれの地域で生かせる場になるのではと思い活動しているという。
「自分はまだ直売ネットワークにいても学ぶことばかりですが、地域のことも皆で考えていくことが大事かなと思うようになりました」と話してくれた。
農事組合法人かなんは地域活性化と生産者の農業所得向上のためにできた団体だ。「これからも地域のためにある場所でありたい」。淡々と話す様子とは裏腹に、石原さんの言葉からは確固たる決意と熱い想いが感じられた。
※この記事は「産直コペルvol.52(2022年3月号)」に掲載されたものです。
大阪府南河内郡河南町神山523-1
道の駅かなん
TEL:0721-90-3911
WEBサイト:http://www.osaka-michinoeki-
kanan.jp/index.html