LFPながのの令和3年度の間接補助対象となった食農連携プロジェクトは、長野県が全国一位の生産量を誇る栽培エノキタケの利用拡大を図る取り組み。その名も「明日はきのこを食べようプロジェクト」。プロジェクトリ―ダ―を務めた生産農家・株式会社小池えのきの代表取締役、古屋健太さんに話を聞いた。(文・毛賀澤明宏)
話を聞いた人
(株)小池えのき代表取締役 古屋健太さん
エノキメンチ1万5千食と食育ブックを提供、
786人の栄養士のアンケート回答
「エノキタケの消費拡大の取り組みは以前から仲間と一緒に進めてきました。今回のLFPの取り組みでは、特に学校給食への食材提供の点で、今までなかなかできなかったことを切り拓くことができたと思います」。古屋健太さんはそう話す。
今回のLFPプロジェクトの基本骨格は、小池えのきが本拠を構える中野市(エノキタケ生産量の日本一の市)を中心に、長野県の北部地域(「北信」と呼ばれる)の小中学校に学校給食用のエノキタケ入りメンチカツ1万5千食を提供、併せてエノキタケに関する食育ブックを制作・配布して、子ども(並びに保護者)にエノキタケの美味しさ・栄養価の高さ・地元の誇るべき特産品であること―などの知識を拡げ、エノキタケ需要の掘り起こし・底上げを目指すというものだ。子どもたちにはアンケートにも協力してもらった。
また、広く長野県全域の学校給食の栄養士にキノコに関する情報提供のための冊子「キノコのススメ」を制作・配布して、今後の食材利用拡大に向けたアンケートも実施した。
「子どもたちには概ね好評でしたし、保護者の皆さんからもお褒めの言葉をいただいています。また栄養士の皆さんがエノキ利用に強い関心をお持ちであることがよく分かり、目からうろこが落ちた気がしました」と古屋さん。(もう一つ新規需要の拡大をめざし、エノキと大豆ミートを組み合わせた〝肉を使用しないハンバーグ〟の開発・販売というミッションもあった。これについては別途後述)
エノキタケの需要の安定化はエノキ農家に共通する大きな課題
「エノキタケは鍋の具材という印象が一般的で、冬の鍋シーズンが終わると極端に需要が落ちてしまう。それがエノキ農家の経営の不安定化の要因です。鍋以外の用途拡大がエノキ農家の大きな課題なのです」
以前から消費掘り起こしの取り組みを進めてきている古屋さんであるからこそ、このプロジェクトで実現するべき社会的課題は明確。整理すれば、①需要の通年安定化による栽培農家の経営安定化、②予防医療や生活習慣病の抑制効果が期待できるエノキの消費拡大で健康寿命の延伸、③食肉(の一部)をエノキタケに置き換えることによる県内産食材利用率の向上と地産地消の食文化の発展、④同じく食肉との置き換えによる食肉量の抑制・畜産業が与える地球環境負荷の軽減―など。
学校給食に利用できるエノキ入り加工食品(今回はメンチカツ)を開発し販路拡大できたり、そもそも生のままでエノキタケの利用が拡大できたりすれば、まさに農家や加工事業者としての利益の向上につながることが同時に、今整理したような社会的課題の解決に資することになるというわけだ。
LFPパートナーから学んだ地産地消学校給食の視点
「学校給食へのアプローチは、わが社の収益を上げるという視点からだけではなく、むしろエノキ農家の経営安定化のために必要と思い、以前からチャレンジしてきたんです。でもうまくいかなかった。今回、ここまで広範に取り組むことができたのは、まさにLFPの取り組みとして行えたからだと思います」と古屋さんは言う。
プロジェクトメンバーには、同じエノキ農家仲間の合同会社竹内きのこ園、エノキ入り冷凍メンチカツを製造した株式会社大福食品工業、一般社団法人日本きのこマイスター協会などが名を連ねたが、新たにLFPパートナーの1人である学校給食地産地消食育コーディネーターの杉木悦子さんも加わった。このことにより学校給食現場、特に栄養士の考え方などが良く分かり、事業の進捗に好影響を与えることができた。
「それだけでなく、エノキ利用の社会的意義、特に地産地消の食育の意義について自分たち自身がしっかり議論を重ねることができたので、以前ならば『どうせ営業目的でしょ』という感じで軽くあしらわれてしまっていたものが、しっかり説得力を持って受け入れてもらえた、聞く耳を持ってもらえたという実感があります」と古屋さん。
令和4年度は、間接補助事業に再度選ばれることは規則上できないが、「社会的意味があることなので、同じような取り組みを継続的に実施していきたいと思います」と力を込めた。
クラウドファンディングも活用して
エノキ&大豆ミートのハンバーグ製造発売に挑戦
エノキプロジェクトグループの取り組みには、先にも述べたように、エノキタケを大豆ミートと併せた「エノキハンバーグ」を開発・販売するミッションもあった。これについては、中央LFP事務局の橋渡しを受けクラウドファンディング業界で活躍する「Makuake(マクアケ)」社と連携して、出来上がった商品を購入することを約束してもらう、いわば予約販売の形で開発賛助金を募って実施した。目標15万円のところ、3月13日段階で57万2500円の応援購入が集まり、数字上の当初目標は達成することができた。 しかし、時間的な切迫性を大きな条件として、このミッションが、本題の学校給食への食材としての提供拡大の取り組みとは切り離された形になった感は否めなかった。社会的課題をめぐって重ねてきた議論も、クラファン用ホームページなどにもう少し反映された方が良かったという意見も出ている。今後こうした点の改善・克服が必要であろう。
※この記事は「産直コペルvol.54(2022年7月号)」に掲載されたものです。